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目の前の黒い塊にため息をついていると、横に居た赤い焔を操る上司が「全く、君は」と呟いて、それから机の上のコーヒーをライターで炙った。「闇が怖いから」正直に言えば、彼は少しだけ笑って「子供みたいだね」と言った。それから、人を殺すのは、得意なのにね!とはしゃいだように言われ、「また、貴方なの」目の前で七変化を成すホムンクルスへ語りかけるのも躊躇われ、その様子を見た彼は「次は、誰になろっか」本当に、馬鹿馬鹿しいと思った。「じゃあ、あなたからみたわたし自身はどのようなものなの、」「人間って、つまらない」両手をひらひらと振られても、ああ、どうでも良いと思う。ぱきぱきと音を出して、それから彼は軍服を纏い、こちらに鋭い眼光を宿し銃口を向けるわたしになった。「ピアスを忘れているけれど、」思い出したように、そのホムンクルスは笑って、だからわたし自身のピアスを彼に放り投げた。「わたしになりたいのであれば、どうぞ、」彼は、手の上のピアスを眺め、「以外に高価だな」と言った。「お洒落って言っても、それくらいしか思いつかないの」ああ、つまらない女だねえ、と大袈裟に手をあげて、それからそのホムンクルスは耳にピアスをつけた。「もっと綺麗になろうとか、思わないの」唯一、わたしの家ににある洗面所の鏡の前で、ホムンクルスは髪の留め金を外した。その様子をわたしはただ、呆然と見ているだけで、ホムンクルスは髪を櫛で丁寧にといて、「女の気持ち、つったって大体は同じものだろうに」と笑った。「あなたのほうが、愚かだと思うけれど」ホムンクルスは、怒ったようにわたしの頬に銃口を当て、それから舌打ちをした。 「何のために来ているのか、分からないの」 「誰?貴方が、わたしのところへ、ということ」 「女は、ロマンチストだろ?少女漫画的偶然とか、自分の都合の良いように考えたり、だったら、何のために頻繁に来ているか、考えないの」 元の姿に戻ったホムンクルスは、勝手にテーブルの上に腰掛けて、笑った。 「例えば、おまえのことを、嫌っていない、とか」 「ロマンチストは、貴方のほうでしょう」 「素直になれない、とか」テーブルから立ち上がり、「気持ちを表に出さないタイプ、とか」椅子の上にまたがり、ホムンクルスはわたしの目の前に歩み寄り、顔を近づけ、息をはいた。「本当は、好意を持っている、とか」 目の前の赤紫色の瞳は、こちらを射抜く。わたしは動じた素振りも見せずに、ただ、その目だけを見ていた。「馬鹿馬鹿しい、」思わず零れた言葉に、目の前のホムンクルスは酷く顔を崩し、それから青い軍服を纏った。 「この姿が、随分とお気に入りだけれど」 黒い髪が目に付いた。自由になった手で、迷わず銃を探る。銃口を向け、そのまま安全装置を外し、それを見たホムンクルスは笑った。 「君が殺したいのなら、思う存分、殺せば良い。だって、死なないから」 指が震えた。いつも見ている軍服が全くの別のもののように見える。「この姿なら、撃てるの、」尋ねたホムンクルスは、そのまま銃を自分の首筋に当て、それから元の姿へと戻った。「じゃあね、」目の前から消えて頂戴、と頼む。握られた指に、彼の力が加わり、ドン、とにぶい音がしてホムンクルスの身体を銃弾が貫く。彼は、「撃たないでよ、本当に」そう言って、波の様にでる血液を黙って見ている。傷口がふさがるのを止めるかのようにして、彼は銃痕を指でかき回した。 「黒髪の錬金術師さんは、殺しても、生き返らないけれど、」「どうして、自分を傷つけるの」わたしの震えた声に、彼は笑みを崩し、それから怒ったように顔を上げた。 「黒髪の野郎には出来ないことを、君に見せたかったから、」 彼の銃の穴は、もはやふさがりかけていて、火薬の匂いが部屋に充満した。薬を持って来ようとして、ホムンクルスの姿を捉え、止めた。目の前の深緑に光る髪と、赤紫色の眼球が全て闇に溶け込んでしまえば良いのに、と思った。 |