簡単な任務、勿論遂行。平和臭い、とこの雰囲気をそう表現した男には驚いた。無論、それも込みでの計画である。真っ黒なドリップコーヒーはインスタントで、いっそこの中に泥でも入れてやろうかと思いつつ、手にしていた粉を諦めて砂糖を入れた。無能である男は、命の綱の発火布をデスクの上に置きっぱなしにして、窓の外の"平和臭さ"と窓の中の"平和臭さ"を比べて楽しんでいた。阿呆である。
「オフィスレディーみたいな仕事をさせて、悪いね」
真っ白なカップのなかで、黒がどろりと揺れた。まだ、だ。残念なことに、是にはまだ何も入れていない。手を汚さない、実に強力。調合次第で、死亡率がぐんと跳ね上がる素敵な、魔法!
「”お茶汲みをするために、会社に入ったんじゃありません”」
「面白いね」
「その雑誌に、あなたに関係あることが載っているとは思えませんけれど」
「興味本位。中を見たのかね」
「いいえ、直感です」
「すばらしい!」
くだらない、と呟いて、男が眺め散らかしていた雑誌を片付けた。
「仕事が溜まっています」
「なんとかなるだろう、君なら」
「あなたには、無理です」
「きついな」カップに口を付けて「しかし、コーヒーは、不味い」
インスタントコーヒーですから、と言い訳がましく呟いたのをちらりと見て、「嫁にいけないな」とは、反吐が出る。実際は、意に反して咳がでた。「風邪には気を付けたまえよ」と聞こえた嘲笑を聞き流すと、空に広がるさらさらの青い液体が酷く綺麗に思えた。反する軍服が、酷く忌々しく思え、咄嗟に目の前の男に退け!と絶叫した。胸を掻き毟る程に、邪魔だった。退け!腰元の銃がプスプスと音を立てていた。
「コーヒー、おかわりはいかがです」
「”わたしは、空に溶けて死にます。”綺麗な言葉だろう」
「ええ、」
「雑誌も、そう悪くはないよ」
湯気を立てるコーヒーと比べて、男の目は冷たかった。黒の中に、赤が溶け込んで、そうして掻き消された。男は自身の軍服をつまんで、「これを着ていたら、自然と空と一体になっていくようで、困るね」と年甲斐もなくはしゃいで、それが癪に障った。目の前に広がる赤い環は、蒼にまぎれて只管もがき苦しんでいた。