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水の中だった。 限りなく透明な水の中で、凝縮した栄養分が漂い、さらにその奥のほうで小さな塊がどろどろと蠢いていた。赤黒いそれは浮上しつつ、その狭い空間で刻むようにくるくると美しく舞っていたのを鮮明に覚えている。しかし、それに手を伸ばそうとして思い切り蹴り上げた俺を、危険物だとでも察知したのか、心地よい空間から引き剥がすようにそれは一気に膨張し始めたのだ。この記憶は、自身にとって酷く恐ろしいものの象徴であって、更には精神的外傷の一つにまで迷惑な成長を成し遂げ、今も尚、奥底に深くこびりついているのだ。ああ、なんて忌々しい。 そして、今、目の前で零れている液体もまた、水だった。 腕白なガキが、俺の一言で暴れに暴れまくった残骸である。高級なレッド・カーペットに赤黒く染みを残しつつも大きく広がる水を、俺はぼんやりと見るほか無かった。液体が宙を舞っているのを捕まえるのは、まず不可能である。とろりと零れた液体は、カーペットに衝突、飛散して無残に割れた。コップについた残りの水滴は全て俺の姿をうつし、その黒と蒼のコントラストは少しずつ振動することによって、自分で自分を嘲り笑うというなんとも奇妙な錯覚に陥る、いわば自意識過剰である。世界中の目が俺を見て、指をさし、まるで深夜の下品なバラエティ番組のように傍聴しているのだと思うと頼りなく、更に苛立ち、道化の仮面をべりべりと剥がす暴力的な行為を平気で行う、まさに人間の奴隷として語り継がれている証拠なのだろうかという恐怖に慄き、咄嗟に頭を庇うようにして蹲った。吐き気だ、と何気なく呟き、まるで貧血のような症状ののちに世界が、暗転、俺は身震いをした。ああ、なんて女々しい。 しかしながら、ブラックホールに飲み込まれ一転、ホワイトホールが飽和状態、嘔吐、嘔吐。つまり、それは俺の歓喜の叫びと感情的理由による赤面に等しいのである。 |