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弟の身体を奪ったのは他でもない、彼の兄である俺だ。だけど今は違う。俺の目の前で、俺が丹精込めて書き上げた報告書を平然と燃やしつくして灰にしてしまったのはただ一人である、それは一体誰でしょう。 執務室の中には俺と英雄とかなんとか知らないけれど、そんな噂の友達のいない寂しい若き大佐殿の二人のみ。共通点は、錬金術師。目の前で蒼い軍服を爽やかに着こなす彼は「焔の錬金術師」、つまり焔を専門分野とするってことだと思う。そもそも俺はゆびぱっちんなんかで錬金術を使わないし、発火布の手袋なんて持っていないしいらない。というか、自分の報告書を態々燃やす理由も無いので、俺はこの報告書を燃やした犯人ではないとすれば残る消去法の一人の男。故に、ロイ・マスタング大佐だった。 何の前触れも無く、咄嗟に、突然のことで俺はすっかりパニックに陥ってしまったのが原因だろうか。口内でもごもごと悪態をついたのがまずかったのか、野郎は何事も無かったかのように手首をくるくると回しつつ、ポーカーフェイス、眉ひとつ動かすことなくあっさりと「最近、錬金術を使ってなかったからね、試したんだよ」と仰いました。 はぁ?と喉にこびつくようなかすれた声をなんとか出して、俺はわなわなと震えだし悪口の一つでも呟いてやろうと野郎の胸倉を掴み、「え、だってこれ俺の報告書なんだけど。くそありえねえ、ぶっつぶす」と叫びまくったのは良かったけれど、 「なんだ、たかが報告書だろう」 頭に血を上らせて怒るほどでもないことだな、と言ったのは誰だろうと思った。一瞬一瞬言葉が遠くなったかのように、耳が聞こえなくなかったかのように聞こえた後に張り付くような気持ちの悪い声色での笑い声。 「てめえ、本当殴る」 「いいだろう。しかし殴った瞬間、軍法会議いき決定だ」 勿論そんな言葉でしり込みする俺ではなくガツン、と一発ぶちこんでやった。途端口内が切れ、奴は夥しい血液を吐き出して、そして、 と思ったのは恥ずかしいことに俺だけで、その手はがちりと受け止められ「甘いな」とまで言われたのだ。なんという苛つく三十路なのだろうか。俺は拳に込めていた力を緩め、それを確認して奴が手を離したのを狙ってもう一度殴ろうかと思ったけれど、その行為によって俺のプライドだとか誇りと言った類のものが失われるような気がして(というか、確率的には十分失われるほうが大きいと判断)潔く止めた。それでも腹にこめる怒りは収まらず。 「うっせえんだよ、すかした面見せんじゃねえ」 「ふん、行動がワン・パターンの単細胞に言われたくない」 単細胞、という予想外の言葉に対してこれは本当にありえねえ、と思っていた俺の視界に灰になった報告書が再び入り込み、怒り倍増興奮、意気軒昂、いやいや激昂!何のために、俺がこんな不愉快な思いをしなければいけないのか、と考えれば虚しさを通り越す、これは一体なんだろう。 「そんなことをするから、私は報告書を焼いたんだよ。なんだねあの殴り書きは。人が読めるような字になってから来たまえ」 かちん、と何かがぶつかる音がした。同時に苛々イライラ、唯一の誇りであるマイ・ペースがあまりにも乱れ狂い、隔靴掻痒。ここに居ると本当にストレスが溜まって爆発して死んでしまうかもしれない。爆発したらどうしよう。俺は弟の身体を取り戻さなければいけないのだ。そうしたらこいつに責任を取らせようか、と考えているうちに大佐は一枚の紙を取り出してその上方にさらさらと何かを書いていると思ったら、吃驚、俺の名前である。 「軍法会議は好きか」 「てめえが一生ぶちこまれてれば」 「ああ、そうか。じゃあ決定だな」 この度、エドワード・エルリックを傷害罪及び、と大佐は慣れた手つきで真っ白な紙を埋めていく。本気か冗談かの境目も分からない、非常に危険な野郎に間違って告訴状なんて出されたら溜まったものじゃない。俺は慌ててペンを取り上げた。 「やめろくそ大佐、」 「そんな言葉は聞いたことが無いよ、鋼の」 もうすぐ三十路を迎えられる二十九歳様は、いたって冷静。しかし、俺は反抗期。決して血の気が多いんじゃありません、冷静じゃないのではありません、キレやすい十代のお年頃さんなんです、you understand?軍法会議にかけられるのはどっち?俺じゃないことは確かですよね、という愚かな少年の言葉に、世の中消去法で決められないこともあるんだよ、と同じく愚かな大佐殿は笑い声と血を吐いた。 |