なんでもないことなのだと思う。日常的に頻繁に起こる限りなく無意味なもので、例えば起き上がっていつもは時計を一番に見る筈なのに今日に限って新聞を見てしまっただとか、洗顔の最中に石鹸を落としてしまっただとか、パンに塗るバターが切れていたからマーガリンを使っただとか、誰が気に留める?そう!それほどまでに小さな誤算であるのだ。だからこれを俺がうじうじ気にする必要なんか無くて、客観的に見れば当然、この事が地球が回るのに差し支えのあるような地球温暖化だとか、環境問題とかと比べれば蟻、いや微生物、バクテリアよりも小さなものであってきっと、誰の目に止められることもなく明日はやってくるのだ。ロイ・マスタング、何を気にする必要がある?部屋中に散らばる残骸、流れ出すのはラズベリー、クランベリーそれともストロベリージャムだろうか。此処はどこだろうか。誰かがケーキか、或いはパンか、七面鳥かなにかを焼くのを失敗したのだろうね、無礼にも俺の前に転がってぷすぷすと奇妙な唸り声をあげるおぞましい有機物は。ああ、だけど、そんな小さなものではなくてもっと大きな、丁度ゲテモノの猿の蒸し焼きを焦がしてしまった姿に良く似ている。猿の蒸し焼き?それにジャムをかけて食べようとするのか、ジャムはスコーンかチーズケーキ、アイスクリームにヨーグルト、焼いたパンにかけるのがマジョリティー。きっと尋常でない味覚の持ち主なんだろうね、ああ、そう言えば俺のほかに誰かもう一人いたような気がする。いた、と言うより俺が連れてきたんじゃなかったか。手にはふるい書物、これはもう読破したんじゃなかったか、嗚呼!
「この本を、」
読みたいんじゃなかったかね、という俺の言葉が己の耳に反響した。というか、俺は一体誰に話しかけているのだろうか。このわけが分からない状態で俺は混乱している?いいや、あの忌々しいイシュヴァール戦で見慣れているはずだろうこんな状況、だけれど何故に目の前に猿が転がっている?肉を食おうとした?ほんとうにほんとうに本当に!
「どうしたんだ。怪我をしたのか、鋼の」
はがねの、はがねのってなんだろう。自分で言った言葉が分からないけれど、はがねのはがねのはがねの鋼の!そうだ、鋼のは何処だろうか、何処にいるのだろうか。怪我した?なにが?というか、その鋼のとは誰なんだろうか怪我を負っているのだろうかだとしたら何か対処をしなければならないだろうね。それでも怪我の度合いによる。挫傷、打撲、骨折、やけどってなんだったっけか。目の前の炭から酷いにおいがする。これはなんだったけか、――猿だ。俺が、いや鋼のが猿を食べようとしていたのかジャムをつけて。それにしても鋼のはどこだろう、何処にいるんだろう、怪我をしているのだ早く助けなければしんでしま、
「どうしたんだ、もう一度指を鳴らせば良いじゃないか」
自分の声だ!指を鳴らすってなんだろうか、発火布、火が、ああ、俺は焔の錬金術師だ。これはなんでもないことなのだと思う。たかが一人、じゃないか。なあ、イシュヴァールの英雄。